のぞきからくり
紙芝居より古く、江戸時代からあった庶民の娯楽
今日の外題
のぞきからくり(覗絡操)は江戸時代の寛永年間に生まれ、社寺の祭礼・縁日に欠かせない風物誌となった。
広場に屋台を組み、覗き穴から中の絵を見せながら、興行師が独特の節回しで口上を語り、場面 に応じて絵が入れ替わる仕掛けになっている。
さあ、いらっしゃい! はい、のぞいて、のぞいて!
上の穴が大人用、下の穴は子供用。始まるんだよ、始まるんだよ。
中は歌に合わせて変わります! 今日の外題は「勧善懲悪 この世の誡め 地獄極楽!」
これからお子供さんの親となるか、前悪を犯された方、どうぞ戒めのためにご覧になってください。
1.不如帰
2.勧善懲悪 この世の誡め 地獄極楽
3.金色夜叉
4.伊達娘恋の緋鹿子 八百屋お七
不如帰(ほととぎす)
浪子の幸はどこにある
明治の文豪、徳富蘆花の不朽の名作[不如帰]
新派大悲劇、片岡子爵の長女、浪子と海軍少尉男爵川島武男との悲しい恋物語
結核に冒された浪子は実家に帰されてーー
三府の一の東京にーて 浪に漂う益荒男は
はかない恋にさまよいて 父は陸軍中将にて
片岡子爵の長女にて 桜の花の咲いた様な
人もうらやむ器量よし その名ー片岡浪子嬢ー
<中略>
一度帰りしその時は浪さん我が家の人ならず
二度目帰りしその時は浪さんこの世の人ならず
ないて血を吐くほととぎす
『人間はなぜ死ぬのでしょう 死んでも私はあなたの妻ですわ、未来の後までも』
勧善懲悪 この世の誡め 地獄極楽
寒くともたもとに入れよ西の風、弥陀(みだ)のかなたより吹くと思えば耐え難し
<人が死したら七日目に、落ち行く先は六道の辻>
<三途の川>
娑婆から落ち来る亡者めが、左に行くなら地獄かや、右に行くなら極楽かと、迷い迷うておるならばーーーーー
<閻魔の庁>
娑婆で犯せし悪事をば、つつめーども、隠せども、映せばーわかる浄玻璃の鏡
罪の重いか軽いかは、業(ごう)の秤にかけられて、地獄の迎いは火の車
<賽の河原>
死出の山路(やまじ)のすそ野なる、賽の河原は子供の地獄。
一つやー二つ、三つや四つ、十(とう)にも足らない幼子(おさなご)が、さいの川原に集まりて、あたりの小石を寄せ集め、一重積んでは母恋し、二重積んでは父恋し、三重四重と積む石は、親戚―兄弟我が身のためと回向する。
昼は川原で遊べども、日の入相となるなれば、邪険な鬼めが現れて、積んだる石をば打ち砕く。
幼子は、石につまずき血はにじみ、血潮に染めて、とと様、かか様と泣く声は、この世のー声とはこと変わり、哀れさ骨身を突き通すなり。
<地蔵菩薩>
もったいなくも地蔵菩薩が現れたまい。泣くな嘆くな幼子よ、汝の父母(ちちはは)まだ娑婆なるぞ。娑婆と冥土(めいど)はほど遠い。冥土の父母われなるぞ。聞いて幼子喜んで、袖や衣に泣きすがる。
幼い子供をお救いたもう、賽の河原は子育てのお地蔵菩薩なり。
金色夜叉(貫一お宮の物語)
鴫澤(しぎさわ)娘、宮さんと大学生の貫一と親の許せし許婚
ともに遊びし富山が宮さん見初めて恋をする
欲か迷いか両親の、勧めに従い宮さんは
富山名のる唯継と夫婦約束なさんため
今日しも母につれられて、熱海の浜や梅林で
出会うと知らない貫一に
熱海の海岸散歩する貫一お宮の二人連れ
ともに歩むも今日限り、ともに語るも今日限り
夫に不足ができたのか、さもなきゃお金に迷いしか
恋に破れし貫一はすがる宮さんけとばして
いづくともなく去っていく
宮の心の変わりしを恨みに思う貫一は
ああ、学問も何もやめ、悪魔となりて金色の
夜叉となりしもあわれなり、それに引き換え宮さんは
富山家にとかしずきて
はやひととせは夢と過ぎ、今宵は一月十七夜
来たらぬ年の今日今宵、僕の涙でこの月を
きっと曇らせみせるぞと、恨みのためか今日今宵
空が曇りて雪となる、遂に宮さんの気が狂う
伊達娘恋緋鹿子 八百屋お七
そのころ本郷二丁目に 名高(なだか)き八百屋の久兵衛は
普請成就する間 親子三人もろともに
檀那寺(だんなでら)なる駒込の 吉祥院(きちじょういん)に仮住まい
寺の小姓の吉三さん 学問なされし後ろからー
ひざでちょっくらついてー 目で知らせーーーーー
わたしゃ本郷へ行くわいなー たとえ本郷と駒込とー
道のりいかほどへだつともー 本堂の横でしたことは
死んでもーー忘れてーーくださるなーーー
かわいい吉三(さん)にあわりょかと 娘心の一筋に
一把(わ)のわらに火をつけてぽいと投げたが火事となる 誰知るーまいと思えども
恋のかなわぬ腹立ちで 釜屋の武兵衛(ぶへい)に訴人され まもなくお七は召し取られ 上野の白州(しらす)に引き出され 一段高いお奉行さん そちらは十四(じゅうし)であろうがなわたしゃ十五でひのえうま(丙午) 十四といえばたすかるにー 十五というた一言でー 百日百夜は牢住まい
はだかの馬に乗せられて 伝馬町から引き出され 先には制札(せいさつ)紙のぼり 罪の次第を書き記しー-
お七を見にでし見物はあー あれが八百屋の色娘えー
吉三ほれるはむりはない
田町、八つ山右に見て 品川表をこえるならあーー
ここが天下の仕置きばでー 鈴が森にとー着きにけるう
二町四面が竹矢来(たけやらい) 中にたてたる鉄はしら 花のお七をしばりあげ 千ば万ばの柴茅(しばかや)を 山のごとくに積み上げて 下より一度に火をつける あついわいな 吉三さんー わっとないたる一声(ひとこえ)が 無情の煙と立ちのぼればーー
哀れやこの世の見おさめーー 見おさめーーー
ありがとうございました おあとと交替 おあとと交替
(写真:伊達娘恋緋鹿子 火の見櫓の段)
「八百屋お七」 屋台と中ネタ (新潟市巻郷土資料館所有)
「八百屋お七」の中ネタ(7枚)の一部を紹介する。
2枚目:お七と吉三郎との初めての出会い(吉祥寺の奥座敷)
3枚目:八百屋の店開き
4枚目:本郷に帰ったお七は吉三郎に会いたい一心で放火
5枚目:お裁き(15歳以下であれば減刑になるが、お七は16歳だと言い張る)
6枚目:江戸市中引き回し
のぞきからくり関連
ディスプレイ・デザインの歴史 立版古・のぞきからくり(乃村工藝社HP内) のぞきからくりの図、「江戸と東京風俗野史」