東京帝国大学の学生生活(昭和3年)






昭和3年4月から5月にかけて「ある日の学園」と題された在京の主要大学、高等学校(旧制)のキャンパスの雰囲気、学生気質を紹介するレポートが東京朝日新聞に掲載された。

当時は東京の帝大生は7000名もおり、昔のように資産家のおぼっちゃんばかりではなかった。また、他の大学も充実してきており無条件で特権を与えられる時代でもなくなっていたが、やはり帝国大学令に基づいた帝大生であり、大学令に基づく普通の大学生とは違った。写真は昭和の初めに建てられた医学部本館。

帝大には女子学生はいないがもちろん女子聴講生はいる。また、医学部には女子医専を卒業したぴちぴちした女医さんたちもたくさん入局しているし、看護婦さん、患者さんも多い。皆さん帝大にあこがれて「いいことあるかな」と思っていたのかもしれない。

帝大生も若者であるから女性には興味があり、ついつい品定めをしてしまうのは現代と変わらない。現代は医者が患者を評価したり、接待業や芸人が客を品定めしていい客だ悪い客だと言ったりしたら不謹慎だと問題になるだろうが、当時は新聞にも本音が書かれていて面白い。昔はおおらかだったんだな、ある意味ではよき時代である。

帝大の守衛さんのコメントがすばらしい。構内を通り抜ける美人の群れに関しては「ここの学生に限って見向きもしませんよ」と帝大生を絶賛して「仕事きっちり!」である。

また、当時はギターより学生はマンドリン、チェロ、バイオリン等で音楽を楽しんでいたらしい。帝大教授であった寺田寅彦も第五高等学校(熊本)時代に金八円八拾銭を出しバイオリンバイオリンを買って寮で弾いている(明治31年5月)。

<記事>
 麗かな晩春の昼下り、医科の学生の間では「下町」で通る大学病院のフルーツ・パーラーに、暖かい春の光がさしこむ片隅のテーブルで学生が二、三人クリームをなめながら今日診に来た外来患者の品定めをやっている。
 -僕のはねえ、上野公園のかけ茶屋のメッチェン(娘)さ…
 -シャンだったかい?
 -可愛い顔だったよ。
 -こいつはいつも一番先に行って、好いくじばかりあてるぜ!
 医科も四年になればほとんど臨床ばかりだ。時には産科の実習で夜中にたたき起されては、眠い眼をこすりながら産室に駆けつけることもある。一晩に四、五人も生れることも珍しくない。
 毎日八時から午後四時まで、講義と実習にギューギューいわされる。ドクトルたる又難いかな!

 山上御殿の芝生つづき、その昔加賀様の馬場だったという柵を回らした運動場では、ひげ面がスポンジのベースボールに夢中だ。解放されたドンキホーテ!昼休みこそ彼等の楽園だ。高校時代の手練よろしくバットは鳴り球は飛ぶ。それも束の間一汗かいた頃チョコレート色の安田講堂の大時計の針が一時を指すと、上衣の黄色いほこりを払いながらノートを小わきに教室へ急いでゆく…

 カン!カン!カン!…八角講堂の鐘が鳴りわたる。ひごいがザブリと大きな波紋を画く、池の端のけやきの木蔭には女子聴講生が二人アルチュール・ランボオの詩を語っている。故浜尾総長自慢の大いちょうも白緑の若葉に美しい、並木路を形づくる。両側にそびゆる大鉄骨は法科の新教室建築場だ。ガタガタガタ…けたたましいリベットの騒音。気の短い末弘厳太郎教授がかんしゃく玉を破裂させるのもここだ。

 帝大学生七千も今では決してブルジョアの子弟ばかりではない。飯時になるとバラック建の薄汚ない食堂の前にえんえん一丁におよぶ立ン坊の列が出来る。しかもセルフ・サービスの二十銭均一の腹をこしらえていうのだから「マルクス経済学」が魅力を持つのも、坊ちゃん学生の純情主義のため計りではないかも知れぬ。

 たとえば法科の学生を象、経済科を虎に見立てれば高踏派の文科生はさしずめきりんか?理科は頑健な勉強家に富むが、一面セロやマンドリンのかくれたる名手も居る。
 工科医科にはひょうに比すべし活動家が多い-押しなべて帝大生は重厚だ。

正門、赤門さては鉄門から朝夕構内を通り抜けるくじゃくの如き麗人の群…
 「ここの学生に限って見向きもしませんよ」とは守衛君の礼賛だ。

  (誰か昭和を想わざる ~流行歌と歴史のサイト~ から転載)
ジャン・ニコラ・アルチュール・ランボー(Jean Nicolas Arthur Rimbaud, 1854年 - 1891年):19世紀のフランスの象徴派詩人。ランボオとも。主な作品に散文詩集『地獄の季節』、『イリュミナシオン』など。早熟の天才。詩人ヴェルレーヌによって才能を見出され、後にマラルメらとともに、「呪われた詩人」と評される。ダダイスト、シュルレアリストら、20世紀の詩人たちに絶大な影響を与えた。

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日本の大道芸をみたりやったり、日々の活動を報告する。
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